interview
山口 洋(HEATWAVE)1/4
『震災後の日々の中で』
経験、焦燥、葛藤、奮闘、相馬、そして継続する意思。
その音楽に込められた多くの想い。
千葉のライブハウスでHEATWAVEのライブを聴いたのは、昨年5月のことだ。ライブは、HEATWAVEのレコーディングに向けた公開セッションに近い形で、シリーズで行なわれていた。ほぼ新曲のみが爆音で演奏されるスリリングなライブ。それでも言葉はきちんと届いた。
制作が進んでいたはずのHEATWAVEのアルバムリリースのアナウンスはいつまでたってもきこえてこず、今年3月に山口洋のソロアルバム『Songs of Experience』が唐突な感じで発表された。このアルバムには、山口が“311”以降の日々の中で、国や社会に対してどういう想いを抱き、世の中を見つめ、どんな行動をしてきたのかということが、静かに反映されている。彼が経験してきたことは、そのまま私たちが経てきた時間とも重なって、とても力強いメッセージとして響いてくる。
『Songs of Experience』と、この作品が生まれた背景、バンドのアルバム、サッカー、etc。7月、青森県弘前市、仲井戸CHABO麗市とのライブの翌朝、山口洋に話を聞いた。
インタビュー・文/野田隆司(2014年7月2日、弘前東栄ホテル)
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アルバム『Songs of Experience』の背景は、
震災以降の約3年間に渡るさまざまな経験。
◎アルバム(『Songs of Experience』)の曲を書き始めたのはいつ頃からなんですか。
「1曲だけ30年くらい前の曲があるんだけど、9割はあの日(2011年3月11日)以降かな」
◎30年前に書いた曲っていうのはどの曲ですか。
「一番最後に入ってる『Everything』。
ブログで、『俺が書いた沢山の曲の中で、今聴きたい曲はない?』ってリクエストを募ったら、ものすごい数のリクエストがきたの。それから、コレ面白いって思ったものや、古いけど今の自分にとって有効だった曲をレコーディングしてみたんだ」
◎今回収録された曲の大半は震災以降のいろんな想いや経験が反映されているわけですよね。
「うん。なんか人間として相当鍛えられたし、鍛えられ続けている。タフな状況だったから、言葉が出なくなった時期もあったし、音楽自体に意味がないんじゃないかと思った時期もあった。自分の脳みそを通過した経験が、ポジティブなものに転化できない限りは音楽活動をする気はなかったからね。そこまでもってくるのは、我ながら厳しかった。大変だった。でも今は、これまでやってきたことが完璧だとはまったく思ってないけど、すごくやってよかったなぁって思うし。本当に意味のない経験はないというか。自分を成長させてくれたとは思うよね」
情熱というのは、継続する志のこと。
どんな状況でもやり続けること。
◎ポジティブな方向に向くまでの時間は結構かかりましたか?
「3年かかった」(笑)
◎前向きな方向に踏み出せたきっかけは、時間の経過みたいなことが大きかったんですかね。
「人っていう生き物が、あまりにも醜かったってことじゃないかな。本当に福島が、なんでこんな事になってしまわなきゃいけないのか。それは、それぞれの一人ひとりの心の中にも、俺の中にも確実にあったし。それをこういうことが起きてしまったにも関わらず、良くしていこうという人が意外と少なかったという現実。時が過ぎればもう自分のことしか考えなくなってしまうという人が大半だったっていう現実を目にすると、もうこれ以上は良くならないってことが突きつけられる。
その中で、『一番大事なことは自分よりも相手のことを先に考えることだ』ってCHABOさんが身を挺して教えてくれたことを、自分がどんなに伝えようとしたとしても、無駄なんじゃないかって。社会の中で自分は役に立っているっていう実感が持てないなぁと思った時は、辛かった」
◎そういう状況の中でも、アーティストとしての役割が何かしらあるとは感じられましたか?
「あると思った時もあるし、全然ないじゃんって思った時もある。今も、よくはわからないけど、それをやり続けるんだっていう覚悟は持ってる。確信はないけど、それをやり続ける以外に自分に何ができるんだっていう意味では、続けることが俺の中では一番難しいと思っているし。情熱というのは継続する志のことだと思っているから。それもCHABOさんが教えてくれてるんだけど。やっぱり、どんな状況でもこれをやり続けること。俺には、それ以外にできることがないからね」
絶望的な気分の中、それでも何ができるのか、相馬のことを考え続ける。
◎相馬を定期的に訪ねてらっしゃいますが、状況的には何か変わってますか。
「すごく変わってる。残念ながら、世の中のいろんな現実が、掘れば掘るほど、ざくざく出てくる。
例えばの話だけど、社会のシステムを知る上で、除染というビジネスには、仮に1億円の予算があったと仮定すると、そこに下請けが7次まであるんだって聞いた。末端の現場で被ばくの危険を背負った上で働いている人には最初の1億円が1千万円になる。じゃ、残りの9千万円はどこにいったんだっていう話だよね。そんなのありえないじゃん。一番危険な仕事は末端の人間がやる。要するにそれがビジネスで、いろんな奴が中間マージンを抜いてるっていう社会の図式。税金だよ。なんとも絶望的な気分になるよ。誰が何のために…。
だって、もっとわかりやすく言えば簡単な話だよ。僕が君の家の庭に汚物をまき散らしたら、確実に逮捕されるわけで。あれだけのものをまき散らして、あんな状態にしておきながら、誰も何一つ責任を取らない。昨日も一人子どもがライブを見てたけど。その子どもに対して何て説明したらいいのか、俺はわからない。俺は、恥ずかしい。ものすごく簡単に言えばそういうことかな」
◎それでも「MY LIFE IS MY MESSAGE」という形で支援を続けていかないといけないと考えていますか。
「お金の支援とかじゃなくて、そのことについて考えている人間がいること。じゃあ、だったら自分が何ができるんだっていうところかなぁ」
(続きます)
interview 山口 洋(HEATWAVE)2/4『すべてを一人でやるという試み』→http://harvestfarm.ti-da.net/e6694916.html
interview 山口 洋(HEATWAVE)3/4『バンドとしての着地点を求めて』→http://harvestfarm.ti-da.net/e6694921.html
interview 山口 洋(HEATWAVE)4/4 『求められる自己管理能力』→http://harvestfarm.ti-da.net/e6694924.html